オクタヴィネル寮の談話室は今、動かせる椅子や机を動かし、ダンスの練習部屋になっていた。
基本的に寮生ですら中を見ることは出来ず、中に入ることが出来るのはブレイジングジュエルに参加する事が決まっている、寮長のアズール、副寮長のジェイド、それにフロイドだけだった。
その部屋へ一人の寮生が足音を忍ばせて近づいていた。ドアの前で音を確認する。今ここには寮長しかいないはずだと考える。
さっきジェイドが鏡舎に向かったのを見たばかりだ。フロイドは部屋にいたのを確認している。
今、中には寮長しかいない。筈だ。
そっと、扉の前に立って深呼吸する。
少し前に、黙々と練習をするアズールの姿を見てから、どうにも心がざわつく。
前からそうだとは思っていたが、やはりあの人は素晴らしい努力家だ。
偶々見かけた自分だけが気付いた事実が頭の中を巡り、いても立ってもいられずにこうして差し入れを用意してドアの前までやってきたのだ。
よし、と手に持った冷たいハーブティーを入れた水筒を強くにぎり、ノックをしようと手を伸ばす。
「おや、そこは今の時間は立ち入り禁止ですよ」
「ひッ」
一センチほど冗談ではなく飛び上がった気がして、寮生は聞こえた声の方に振り返る。そんなはずは無いと思ったが、いつの間にかジェイドが立っていた。
無表情のジェイドは、すっと指で寮生の持つボトルを指差した。声はまるで感情もない平板さである。
「それはなんですか」
「りょ、寮長に差し入れを」
ハーブティーです、と弁明するように答えた寮生に、ジェイドは今度はにたりと口元だけ歪めるように笑みを浮かべ
「それでしたら、ぼくの方で既に用意をしていますから不要です。わざわざ気を回させて申し訳ありません」
と、彼の肩を掴んでドアから引き剥がすように押しやった。
「い、いえでも」
「あなたの協力したいという気持ちはアズールもきっと受け取ってくれますよ。ただ、何分何が起きるかは分かりませんから。そう、例えば飲み物に何かしら……仕込んでいないとも限らないでしょう」
恐ろしい話ですが、と口元に手を当て溜め息をついたジェイドに、寮生はわずかに声が張り、
「そ、ぼくはそういうつもりは!」
静かに、と指で制されて慌てて黙った寮生に、ジェイドは頷いてから
「ええ。もちろん。わかっています。ただ、アズールも誤解されやすいタイプですからね」
努力家なんですよ、と呟いてから、にたりと、まるで自分の思っていることなど全て最初から知っています、という顔で背中を押した。
「さあ、もうすぐ消灯時間ですよ」
ドアを守るように立つ副寮長を恨めしく見る事しか出来ないまま、寮生は何かに負けたような、そんな気持ちを抱えたまま部屋へと戻っていった。
++++++++++++++
ライブに行って見事にアズアシェに脳を灼かれてしまった。
モブになってライブみたい人生だった。
基本的に寮生ですら中を見ることは出来ず、中に入ることが出来るのはブレイジングジュエルに参加する事が決まっている、寮長のアズール、副寮長のジェイド、それにフロイドだけだった。
その部屋へ一人の寮生が足音を忍ばせて近づいていた。ドアの前で音を確認する。今ここには寮長しかいないはずだと考える。
さっきジェイドが鏡舎に向かったのを見たばかりだ。フロイドは部屋にいたのを確認している。
今、中には寮長しかいない。筈だ。
そっと、扉の前に立って深呼吸する。
少し前に、黙々と練習をするアズールの姿を見てから、どうにも心がざわつく。
前からそうだとは思っていたが、やはりあの人は素晴らしい努力家だ。
偶々見かけた自分だけが気付いた事実が頭の中を巡り、いても立ってもいられずにこうして差し入れを用意してドアの前までやってきたのだ。
よし、と手に持った冷たいハーブティーを入れた水筒を強くにぎり、ノックをしようと手を伸ばす。
「おや、そこは今の時間は立ち入り禁止ですよ」
「ひッ」
一センチほど冗談ではなく飛び上がった気がして、寮生は聞こえた声の方に振り返る。そんなはずは無いと思ったが、いつの間にかジェイドが立っていた。
無表情のジェイドは、すっと指で寮生の持つボトルを指差した。声はまるで感情もない平板さである。
「それはなんですか」
「りょ、寮長に差し入れを」
ハーブティーです、と弁明するように答えた寮生に、ジェイドは今度はにたりと口元だけ歪めるように笑みを浮かべ
「それでしたら、ぼくの方で既に用意をしていますから不要です。わざわざ気を回させて申し訳ありません」
と、彼の肩を掴んでドアから引き剥がすように押しやった。
「い、いえでも」
「あなたの協力したいという気持ちはアズールもきっと受け取ってくれますよ。ただ、何分何が起きるかは分かりませんから。そう、例えば飲み物に何かしら……仕込んでいないとも限らないでしょう」
恐ろしい話ですが、と口元に手を当て溜め息をついたジェイドに、寮生はわずかに声が張り、
「そ、ぼくはそういうつもりは!」
静かに、と指で制されて慌てて黙った寮生に、ジェイドは頷いてから
「ええ。もちろん。わかっています。ただ、アズールも誤解されやすいタイプですからね」
努力家なんですよ、と呟いてから、にたりと、まるで自分の思っていることなど全て最初から知っています、という顔で背中を押した。
「さあ、もうすぐ消灯時間ですよ」
ドアを守るように立つ副寮長を恨めしく見る事しか出来ないまま、寮生は何かに負けたような、そんな気持ちを抱えたまま部屋へと戻っていった。
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ライブに行って見事にアズアシェに脳を灼かれてしまった。
モブになってライブみたい人生だった。